AGA治療薬フィナステリドの副作用について語る上で、近年、海外のインターネットコミュニティなどを中心に話題となっているのが「ポストフィナステリド症候群(Post-Finasteride Syndrome, PFS)」という概念です。これは、「フィナステリドの服用を中止した後も、性機能障害や精神症状などが長期間、あるいは永続的に持続する」とされる、一連の症状群を指す言葉です。PFSの存在は、フィナステリドの服用を検討している人々に、深刻な不安を与えています。報告されている症状は多岐にわたり、性欲の完全な喪失、重度の勃起不全(ED)、射精障害、性器の萎縮といった性機能に関するものから、うつ病、不安障害、不眠、思考力の低下(ブレインフォグ)といった精神・神経症状、さらには筋肉の萎縮や慢性的な疲労感といった身体症状まで含まれます。これらの症状が、薬をやめても改善しない、という点が、通常の副作用とは大きく異なる、PFSの最も恐ろしい点とされています。では、このPFSは、医学的に確立された疾患なのでしょうか。結論から言うと、2024年現在、PFSは世界の主要な医学会や規制当局によって、明確な因果関係が証明された疾患としては、まだ認められていません。PFSとされる症状の報告は多数存在しますが、それらの症状が本当にフィナステリドによって引き起こされたのか、あるいは他の要因(元々の精神疾患や、薄毛に対する強いストレスなど)が関与しているのかを、科学的に区別することが非常に難しいのが現状です。また、報告されている症状の多くは、患者の主観的な訴えに基づいており、客観的な検査で異常が見つからないケースも多いとされています。しかし、だからといって、PFSを完全に無視して良いわけではありません。これだけ多くの報告が存在するという事実を、製薬会社や医療関係者は重く受け止めています。実際に、一部の国の医薬品の添付文書には、服用中止後も副作用が持続する可能性がある旨の注意喚起が追記されています。AGA治療を検討する上で、PFSという概念が存在し、その因果関係については未だ議論の最中である、という事実を知っておくことは重要です。そして、治療は必ず信頼できる医師の指導のもとで行い、万が一、心身に何らかの深刻な変調を感じた場合は、速やかに医師に相談し、一人で抱え込まないようにしましょう。